2007年11月30日
顔見世

「 外は風 」
焼き燗の 首摘まんでは 耳触わり
鰭酒の 琥珀に酔いて 事も無し
鍋焼きに 七味は散りぬ 外は風
もんじゃ喰い 次お好みに 決めてをり
コノワタを 言い訳にする 呑んべかな
この路地に 昔は在りし 慈善鍋
夢心地 夜神楽の里 かっぽ酒
顔見世の 二枚目の眼は ほんのりと
2007年11月29日
酢 橘

「 シクラメン 」
水鳥の 孤独は波と 重なりて
せわしげに 行き交う人よ 冬木立
足元の 電線は泣く 寒烏
まな板に 酢橘の青は 立ちにけり
すがしきは 星夜に並ぶ 葱畑
想い出の 古き花屋に シクラメン
あっさりと 陽と訣別の 寒椿
薬味をば 迷いながらに 牡蠣洗う
2007年11月28日
木枯らしに吼ゆ

「 霜 夜 」
凍返る 夜行列車の 音高し
一人(いちにん)に 一夜の霜の 降りにけり
木枯らしに 遠く吠えいる ものの有り
恋終えて 次第に痩せる 寒の月
到来の 銘酒は寝せて 明日の燗
玉子にも 芥子化粧を 施さむ
誰もかも 烏天狗の マスクかな
歳経れば 酒量めっきり ラップせむ
2007年11月27日
風が鳴く

「 神楽宿 」
落ち武者も 虚空に座すや 里神楽
似た人を 見かけて淋し 冬列車
アルバムに 欠けし場所あり 風が鳴く
湖を そろりと歩く 冬の月
朝焼けを 尾越しの鴨は 呼びに発ち
白き息 栗毛の背中 撫でて行く
薪太き 仏頂面の 焼き芋屋
夢潰え ひとしお猛き 冬の波
2007年11月26日
冬 茜

「 すばる 」
怠け者 二乗となりぬ 今朝の冬
日短の 影足に在る 恋窶れ
冬天に 我が魂こそは 捧げたき
凍雲よ 眉上げて見る 茜かな
もう良かど そいで行かぬか 冬昴
休め田に 泥塗れなる 半ズボン
狐火や 逢う事も無き 怪しさよ
ほだ木をば 焼べて帰らぬ 家のあり
2007年11月25日
寒三日月

「 冬 座 敷 」
北風の 呼ばわる声に 生返事
灯台や 寒三日月を 背負いたり
涸れ池を 廻りて旧き 人に会う
菜を洗う ゴム手袋の 厚きこと
冬座敷 写真の人は 笑みもせず
影揺れる 休みの午後の 白障子
冬の灯は 行けども更に 近付かず
制服の 小守り娘は 日向ぼこ
2007年11月24日
宿無し

「 竹馬の少年 」
寄せ鍋の 炎いらえど 客は来ず
串を待ち 首長くする 炭火かな
湯婆に 足の幸せ 風の夜
竹馬の 少年二人 誇らしく
着膨れて 腰の回らぬ 寝体操
紐重き 蓮根掘りの 盥かな
宿無しの 風花の谷 降りて行く
ざりざりと 踏めとばかりに 霜柱
2007年11月23日
小六月

「 風の里 」
海を眺む 一心不乱の 蜜柑あり
沢庵に 糠を残して はりはりと
駅裏の 渚に寄せる 小六月
壁眩し 城を見上ぐる 枯れ薊
風の里 迎えしものは 干し菜のみ
田楽に 豆腐を厚く 切る夕べ
藁灰を 吹きて焼芋 右左
猟犬の 二山先に 主呼ぶ
鱈の身は 行方も知れず 箸ねぶる
2007年11月22日
白き息

「 鍋の夜 」
杣道の 石を蹴飛ばす 冬日暮れ
白き息 闇を薄めよ 峠越え
星止めて まだ決せざる 冬の海
日めくりの 心もとなき 手応えよ
燗冷めて ただ木枯らしの 在るばかり
ちはやぶる 神の不在に 懺悔かな
すき焼きの 肉良き夜は 無言にて
ネギを押し 肉寄せている 憎き吾子
2007年11月21日
冬日影

「 山眠る 」
昔日の 想い深きや 返り花
茎漬を こきこき嘗めし 祖母なりき
風を裂く その隼に 迷い無し
ためらいて 高架に停まる 冬日影
風呂吹の 頃合い柚子の 皮を擦る
さなきだに 憂いも無きか 眠る山
岬なり 湾口を閉ず 冬の潮
枯れ真菰 草笛哀し 旅の人
2007年11月20日
夢を弄る

「 霜 夜 」
炭小屋に 白き花あり 時は停まる
綿入に 貼り付いている 韮の端
指先きの 夢をまさぐる 霜夜かな
何よりも 大根からと おでん喰う
鴨未だ 岸辺に寄らず 波の跡
一陣の 風によろめく 木の葉髪
夕暮れて 時雨を送る 木立あり
潔く 舞ひて飛び込む 落ち葉籠
2007年11月19日
一茶忌

「 小 春 日 」
この冬も ボーナス薄し 芋の酒
おらが眼も 皺深うして 一茶の忌
一茶忌の 雲はラクダを 踊りけり
黎明を 掃き浄めたる 神渡し
道半ば 木の葉時雨に 立ち尽くし
丹精の 大根肥ゆる 昼餉前
吉凶を 残り野菊の 風に問ひ
小春日の 猫に希みは 多く無し
2007年11月18日
笹鳴き

「 雑 炊 」
雑炊を 焦げまでこそぎ 喰いにけり
笹鳴きの 姿は見えず 昼下がり
牡蠣フライ レモンを切りて 白ワイン
地下鉄の 長き階段 懐手
暗き海 聞こえるものは 虎落笛
鮟鱇は 三島の鍋に 泳ぎたる
湯豆腐の 紅葉下ろしを 待つばかり
母恋し 熱と咳あり 玉子酒
2007年11月17日
明日は明日

「 日 短 か 」
風ばかり 貼紙も無し 留守の神
電球に 色深くせる 蜜柑買う
玉砂利を 浅く踏み出す 七五三
宛て無きに 気ばかり急きぬ 日の短か
落日や 明日は明日 浮寝鳥
裸木の 寂々として 風を負う
各々に 夢を閉ずるか 枯れ薄
冬萌えの 名も無き草よ 旅終えぬ
2007年11月16日
焚き火跡

「 冬の雷 」
シリウスの 旅立てる海 静まりて
木枯らしは 少年の竿 鳴らしおり
堤防に 放り置かれし 懐炉かな
酔ひどれの 眠りを破る 冬の雷
ひと気無く 寂しきものは 焚火跡
路地深く 闇を手探る 花八つ手
きっぱりと 白菜を切る 日暮れかな
落陽に 競いて咲ける 早椿
2007年11月15日
寒 晴

「 冬 帝 」
冬帝は 降りる高みを 伺いぬ
川辺には 石に鳥あり 冬浅し
寒晴れに 山連なりて 雲も無し
別れ来て 悔やみは深く 月冴ゆる
天狼の 独り哭く夜の 道険し
なすべきを また遺したり 夕時雨
故郷の 尾鈴七滝 山眠る
猫二匹 香箱となす 敷松葉
2007年11月14日
枕の下の

「 坂 道 」
てっちりを あらかた終えて うどん玉
坂道の 転がる先に 冬の海
冬の宿 これは嬉しき 辛地酒
笑うなよ 宿のどてらは 寸足りず
露天風呂 石燈籠の 陰深し
膳下がり することも無し 冬の里
灯を消せば 枕の下は 冬の川
2007年11月13日
空に泳ぐ

「 蕪 汁 」
見上ぐれば 空を泳げる 冬柏
洗いたる 大根は白く 陽を浴びる
雨去りて 眩しき 今朝の 実南天
やや傾ぐ 風いずこより 冬薔薇
詫助の 人待ち顔の 垣根かな
身を寄せて 藁に包まる 寒玉子
大椀に 故郷の味の 蕪汁
繩暖簾 石狩鍋の 温さかな
島暗く 冬の入り日に 釣りの舟
2007年11月12日
翁 忌

「 冬金魚 」
独り言 明り障子は 閉じたまま
生姜湯の 醒めても未練 ラップかけ
肌にあり もぐら叩きの 十日夜
夜神楽に 笑いさざめく 里の宿
翁忌は 口実にして 献杯す
きこしめし 冬の金魚を 追い立てる
幾度の 溜め息なりし 枯れ葎
2007年11月11日
神渡し

「 オリオン 」
朱い糸 切れしその夜の オリオン座
静寂を そのまま置きて 神渡し
急く事も 憂鬱も無し 枯野人
返す波 光りを納む 冬渚
憂き夕は 干大根と 油揚げ
炉開きの 釜鳴り始む 背筋立つ
古びても 誕生祝いの 手袋ぞ
山茶花よ 散り急ぐなよ 細き雨
襷掛け 翁は昨日の 落ち葉掃く
2007年11月10日
虚空に揺るる

「蒼のキリコ」
見えぬ眼で 鯔は波紋を 描き続け
鮮やかな 蒼のキリコに ぐみの酒
きっぱりと 色に頼らず 白式部
紫蘇の実は かくも哀しき 夕来れば
読了も 手は後をひく 落花生
黄落の 虚空に揺るる 歩まれず
雨を刺す 枳殻の実の 怒りかな
河口あり 葦の穂とただ 風ばかり
ゆかしきは 風聞草の 薄暮なる
山里に 遊ぶ子等無し 実山椒
2007年11月09日
あなたの茜

「 備前徳利 」
高き雲 汝行く果てに 憧れし
そぞろ寒 備前の徳利 掌に包み
安酒は 触れぬほどの 熱燗で
野茨の 実はあらぬ方 向きており
ピーマンや 腹蔵無きの 潔さ
瓢箪の ぞろりと下がる 昼寝かな
父のごと 丼飯に 麦とろろ
柚子坊の あなたの茜 風止まる
痩せ我慢 哀しきものは 片鶉
2007年11月08日
銀杏風

「 早 贄 」
禁煙を 誓いて三箱 秋の朝
振り返る 背中の先の 空高し
掌の 傷撫でて行く 銀杏風
欲の皮 晩秋晩節 剥がれ落ち
蔦紅葉 律儀に軒で 折り返し
早贄の 突っ張り反る 枝の先
道の辺の 野菊は肩寄す 友送る
2007年11月07日
酒支度

「 一の酉 」
畦道を 右往左往の 草紅葉
きっぱりと 忘れし筈の 郷の柿
夜更かしで 句をひねらばや 酒支度
置き忘れ 取り損ねたる 秋思かな
朱をふりし 手練れの墨で 一の酉
やや寒き 朝の雨降る 行くまいか
盛り蕎麦に 一合追加は 辛口で
2007年11月06日
明治節

「 籾殻焼く 」
好々爺 多くて秋舟 子の騒ぐ
どの道も 道一杯の 黍嵐
島巡る 船追うてゐる 秋の潮
地を這うて 籾殻焼きの香り来る
瓶逆さ うるかも切れて 杯を伏せ
明治節 画廊まばらに 咳も無し
光り射す 花を離れぬ 秋の蜂
磯鴫の 待つ波知れず 日は落ちぬ
山路来て 貧乏葛 身に絡み
2007年11月05日
白秋忌

「 秋 陰 」
川苔の あくまで初志を 持ちゐたる
山葡萄 見事に隠れ 枯れにけり
瓢(ひょん)の実は 名の如く児に 鳴らされし
石叩き 焦がれしものは 来たるかや
白秋忌 異端の我に 雨けぶる
宅配便 行きつもどりつ 冬隣
秋陰に 溜まりの小船 肩を寄す
2007年11月04日
箱根紅葉

「茶の花」
行商の 男の帽も 冬仕度
夜長酒 中也の本は 伏せしまま
秋風よ 猫の憂いを 抱きて発て
黄昏れの 柿の朱こそ 寂しかり
忘れゐし こと蘇る 遠き雷
茶の花は 恵方浄土を 向くがごと
吾れ以外 皆幸せに 見ゆる秋
特急は 箱根紅葉の 風連れて
2007年11月03日
臨時増刊

地元では知る人ぞ知る、えびの産・真幸米、
昨日届いて実は私もはじめて食しました。
今まで食べてた米は何だったの?驚愕の美味さ。
地元でさえ、こうですから、まだまだ日本には未知の美味がありそうです。
叔父よりの 極上の米 郷届く
2007年11月03日
隠れ里

「 指を繰る夜 」
隠れ里 山菜うどんに 柚子の味噌
熟れたれば 夕日に返す 朱き柿
彼方には 空泳ぎ切る うろこ雲
叶うなら 今ひとたびの 秋とせむ
新駅舎 いちょうもみじを 借景す
秋の旅 海ゆるゆると 夕の凪
誰かれと 逝きしを指折る 夜長かな
2007年11月02日
残 菊

「 孤児の鬼灯 」
秋の夕 帰る家あり 待つもあり
戦火絶えず 孤児の鬼灯 今朱し
馬肥えて しかめっつらの 調教師
帰り道 忘れたるかや 泊まり鮎
縄張りは ようく分かった 鵙鳴くな
木の実降る 林を抜けて 握りめし
残菊の 黄は小径を 照らしたる
金星に 曳かれて 月は出でにけり
2007年11月01日
早 稲 酒

「 弦 月 」
夕暮れて 雨に打たれる 落ち穂かな
早稲酒を ちびりちびりで 夜は更けぬ
山間の 懐かしき道 星飛べり
哀しみも 人それぞれの 灯下なり
弦月を 迎えて今日の 手酌とす
雁行の 西空を指す 山遥か
色絶えし 野に竜胆の あればとて

