2007年12月31日

一夜飾り

「 おおつごもり 」

買わで惜し 有馬記念の 万馬券

少女らは ダウンに膨れ チキン喰い

夜勤明け おおつごもりも 朝の酒

早けれど 白菜を切る 燗浸くる

今日だけは 笑って聞かむ 除夜の鐘

煩悩は 鐘に掠われ すぐ戻り

年越しや 表示確かむ 二八蕎麦

なすべきを 成さでも年は 改まり

この年も 一夜飾りと なりにけり

拙きが 感謝を込むる 大晦

2007年12月30日

朔風を

「 淡き色の傘開く 」

照葉の 林の中に 笹子鳴く

外套も 少なくなりし 朝電車

朔風を 背中で戻す 気はあれど

風止みぬ さは遠からじ 春支度

万券が 篭に溢るる 年の市

老いの日は 速きものかな 年の果

連山に 悴みし手を かざしたる

寒行や 若き僧侶の 肋骨

唐梅の 淡き番傘 開きたり

茎漬に 祖母の茶碗を 思い出し               
                                             
                                        
                                    
                                            

2007年12月29日

パトラッシュ、眠いんだ

「 風 垣 」

振り返る 昨日は見えず 冬深む

良き事も きっとあるはず 小春空

枯庭に 番いの鳥の 尋ね来て

覚めやらぬ 朝の眼に 水けむる

丹前に 昨夜のうどん 掴まりて

風垣の 海の光りを 寄せてあり

外は雪 犬をいだきて 寝る少年

炉明かりや いにしえ人の 住まうごと

焼き燗を 文句云いつつ 猪口深し                   
                                
                                 
                                     

2007年12月28日

明日がある

「 寒入日 」

めっきりと 数の減りたる 寒見舞

意味不明 古い暦の 二重丸

頃や良し 鮟鱇鍋に 味噌を溶く

どの家も 悩みはありき 冬灯

菜を洗う 姉さ被りの 手は赤く

今日は今日 明日があるさと 山眠る

会う人の 会釈の温し 冬田道

亡き兄と 家路の如き 寒入日                  
                           
                             
                                 

2007年12月27日

おらまだ酔うてねぇ

「 蟹売り 」

動かざる 枯蟷螂の 鎌重し

懐かしき 藁の香りよ 注連作り

長旅も 命の淡き 霙かな

朴散りて 空は虚しく なりにけり

出番待ち ミルクを纏う 冬苺

酒にまだ 酔わない先の 寒蜆

蟹売りの 文字のまずさよ 夕迫る

波を逃ぐ 荒き渚の 夕千鳥                    
                            
                                  

2007年12月26日

冬ざれ

「 止まり木 」

さはあれど 遠き故郷よ 冬の星

夕来れど 風音も無し 鴨の池

木枯らしや 動物園の 観覧車

木菟や 独り辛いか 寂しいか

おでん屋の 止まり木の背の 黙々と

冬蜂を 押したり引いたり 吹いてたり

あの道の 曲がりの先に 落葉焚き

一線に 隼の意志は 確かなり                             
                                           
                                      
                               
                                        

2007年12月25日

瓶の底

「 夕焚き火 」

湯豆腐の やや物足りぬ 夜更けかな

恋しきは 母の膝なり 冬日和

コップ酒 沢庵漬と エイの鰭

茶の花は 溜め息一つ 瓶の底

眩しきは 女子学生の 白い息

旅の汽車 心に懸かる 夕焚火

霜夜には 一里の道が 果て遠し

蕪村忌に 膝改めて 濁り酒                         
                                 
                                    
                                   
                                   

2007年12月24日

暗き空

「 一坪の月 」

そのかみの 母の香りの 柚子湯かな

ひそとして 淀みに沈む 寒の鯉

町を越え 海に散りゆく 風花よ

煮凝りの 奥歯に滲みる 朝なりき

空暗し 鳴くも辛いか 冬雀

麦の芽は 己が明日を 疑わず

一坪に 一坪の月 冴えにけり

山小屋に 立ち寄りもせぬ 空っ風

2007年12月23日

火の用心

「 煤逃げ 」

穴釣りの 時を止めたる 猫背かな

不機嫌の 愛想無きが 飾り売る

土手も樹も 風強けれど 春支度

煤逃げの 後ろめたさよ 缶ジュース

割り箸の 多過ぎないか 夜鳴き蕎麦

炉話しや 薪は火の粉で 調子とり

小魚は 寝耳に水の 池普請

拍子木は 月に届けよ 火の用心

       
                        
                          

2007年12月22日

冬安居

「 木の葉降る 」

裏山に 木の葉時雨の 鳴り止まず

幸せの 夢から覚めし 枯葎

古き葉を 見送りている 冬芽かな

一群れの 篝火草は 燃えるなり

寒独活を 小皿に寝せて 猪口捜し

寒鯛の 淡き紅愛で 山葵置く

山寺や 鳥も遠慮の 冬安居

柊に 鰯は焦げて 身を反らし             
                                    
                                
                                
                             

2007年12月21日

墨衣 破れ笠見る 藪柑子

すみごろも やぶれがさみる やぶこうじ

2007年12月21日

重いか温いか

「 招き猫 」

冬の子に 世田谷線の 招き猫

乳母車 青き帽子の 毛糸玉

ベビーカー 足を踏み行く 師走かな

アメ横の 親父の声も かすれがち

置き去りに されるぞ不忍 メタボ鴨

マスクして 優先席は 寝たふりで

年忘れ 帰る家まで 忘れ果て

タクシーに ごちそうさまと 聖夜かな

終電は 柿熟したる 寒夜なり                     
                                       
                                       
                                       

2007年12月20日

やがての春

「 川の字 」

貧乏も 川の字温き 蒲団かな

蝋梅や 光りやわやわ 透けてあり 

寒芹を 担ぎ露店に 売る老女

盆の縁 欠けて居たりし雪兎

良き酒に 奮発をせし 鮪かな

ねぐら無く 闇に一声 冬の犬

川を越え 納め大師の 甍かな

魔よけ笹 神農の虎 掴まりき

遠き日よ 家族有りせば 松迎                   
                                           
                                  
                                       
                                          

2007年12月19日

冬 陽

「 寒 椿 」

春までは ばねを矯めるか 老い桜

雪を呼べ 露地に落ちたる 紅椿

窓越しに 薄き月あり 昼の酒

御火焚や ひときわ高き 子等の声

冬の陽に 手を炙りおる 鉢の花

老いあれど 直ちは落ちず 冬柏

金柑の 庭を二尺も 掠め取り

墨衣 破れ笠見る 藪柑子                
                                       
                                     
                                    
                                      

2007年12月18日

寒い

「 冬 梢 」

彼方まで 投網かけたる 北颪し

平凡を 謝して欲無し 年収む

夕月を 枝に刺し居る 冬梢

寒鰤を 二合徳利は 待ち兼ねて

灯を消せば 木枯らし寂々 鳴くばかり

冬の浜 逃れ来たるに 人恋し

引けばとて 夢は戻らず 冬の蔓

遠き日の 人に会いたし 冬の駅                    
                                
                                    
                                
                                  

2007年12月17日

自虐を並べ

「 冬のカナリヤ 」

傘忘れ 唄を忘れて 朝の冬

かくのごと 故郷もあるや 小春空

蝋月や 自虐を並べ 至るかな

寂しさは 極まりにけり 冬半ば

冬暁の 空に染まりし 雲一つ

跡航は 身を捩らずに 寒の凪

波も聴け 防風垣の 虎落笛

風一陣 袖をかい込む 冬羽織                  
                                 
                                 
                                
                             

2007年12月16日

今日を生きる

「 冬 人 」

鼻欠けし 石の仏や 夕時雨

病得て 心飛びたき 郷の冬

白き鳥 空に忘れし 寒の雨

冬人や 今日の鉄路に 身を任せ

感動を 忘却せりや 枯野道

朝淋し 窓の結露に 指が這う

日は陰る 置き去り難き 凍ての蝶

懐かしき 人来たれかし 冬木立

2007年12月15日

蒼一心

「 指の記憶 」

目の縁を 化粧上手に メジロかな

木枯らしを 連れて大河の 幾曲り

冬の砂は さらさらと指を 記憶せり

斥候を 風に任せて 冬の雷

割りし薪 高く積まれて 雲は無し

猟師小屋 風びょうびょうと 戸を叩く

冠雪は 黎明に染む 綿の菓子

冬の空 一心に蒼 纏いけり                         
                                       
                                  
                                     
                               

2007年12月14日

冬 館

「 寒 見 舞 」

口切りの 身も改まる 坪の庭

もう良かと 云われて五本 薪を割る

主無き 無聊いかにか 冬館

もてなしの 心の温し ほだの宿

粕汁を 大椀に盛る 皺優し

餡まんの 湯気に誘われ 土産買ひ

恒例の 討入りに義士 疲れ果つ

吟醸を 提げて鄙へと 寒見舞

2007年12月13日

北 颪

「 寒 紅 」

凍返る 夜道に零る 窓の燈や

またいつか 心戻るか 凍豆腐

寒紅の 妖しきまでに 朱なりき

人生は これからなりと 暦買う

面々が 捨てずに集う 年忘

冬衣 ためつすがめつ 子は並べ

浜辺にも 冬来たりなば 冬の色

身を振るい 冠雪行けと 北おろし

貧しきに 惜しまず与う 隙間風                          
                                        
                                      
                                      
                                   

2007年12月12日

菊果つ

「 トタン屋根の猫 」

冬ざれや 充ちたる者は 運と云ひ

凍て道を 悔いと諦観 やや希望

待ち受けは 桜のままに 師走かな

銭は無く 聖夜飾りの 空々し

犬は先 探梅行の 湯島坂

宵までは トタンに座る 冬の猫

迷い去り 今日生まれたる 霜を撫ず

寒稽古 朝陽に向かひ 波を蹴る                                   
                                                    
                                       
                                       
                                      

2007年12月11日

コタツ猫

「 雪 蛍 」

湯豆腐の 湯気じんわりと やって来る

初恋の 歌ぞ懐かし 冬の浜

身は割れて 行方も知れぬ ちさき鱈

夕暮れて 舞うは哀しき 雪蛍

見知らぬが あたれと誘ふ 焚火かな

眠りこけ 首だけ覗く 火燵猫

片割れを 捜し疲れし 手袋や

北風に 朱き木の葉は 昇りけり                  
                                     
                                
                         

2007年12月10日

すずめ

「 炭 団 」

昼なれど まだ温かかき 炭団かな

初めての 駅頭疎ら 北風(きた)吹きぬ

詫助の 一輪挿しの 居酒屋に

飽きもせで 吾を責むるか 冬の波

農夫らは 帰り支度や 山眠る

馬小屋に 風よけのごと 懸菜あり

しんとせる 曲がりの岸に 枯薄

黄道を やや傾きて 冬日影

冬すずめ 押し合う肩の 愛しさよ                           
                                           
                               
                              

2007年12月09日

冬野に発つ

「 手袋のうさぎ 」

手袋に 兎の刺繍 老教師

風止みて 山茶花の朱 極まれる

溜息を 繰り返しつつ 大根擦る

冬の宿 窓閉めたるも 海の声

支え合う 意志無く雨の 冬薔薇(ふゆそうび)

手を振りて 冬野に発てば 見返らず

枯れ菊の 予期せぬ色に 滲みたり

酒呑みが しかと頷く 根深汁                          
                                                
                             
                          
                           

2007年12月08日

空 っ 風

「 凍て蝶 」

悔い多し 歯磨き水の 冷たさよ

枯れ草に たまらず縋る 凍し蝶

寄鍋や 底の底まで 突つき居り

心あれば 哀しく鳴くな 百合鴎

酒到来 分葱透けたる 河豚の刺

路地に迷い 後から後へ 空風や

鳴き疲れ 痩せし老い犬 霜背負う

飛べずとも 矜持は捨てじ 冬の蜂               
                                       
                                     
                                    

2007年12月07日

林に射す

「 小指の傷 」

埋火を 掘り出す時も 片手酒 

湯たんぽの 温き間にいざ 夢探る

うずたかく 野菜積みいる 冬帽子

鯉メダカ 安否を思う 川涸るる

指折りて 良き日を数う 大気冴え

かじかみし 小指の傷や 里の事

雪女 淡き衣装の 寒からむ

霜菊は 残照になほ 未練かな

光る川 水仙は立つ 揺らぎ無し                  
                              
                               
                                 
            
                               
                                  

2007年12月06日

雨来たる

「 傷 心 」

極月を なすすべも無し 雨来たる

まな板の 音鈍くして 風冴ゆる

誰が家も 祈るが如き 冬の暮れ

亡くしたる 遠き子を思い 日を数う

真っ直ぐが ただ淋しけり 冬野道

藁仕事 木づち振る祖母 土間に有りき

冬ざれや 傷む心に 滲みにけり

着ぶくれし 若き娘の 高き声                       
                                
                              
                              

                   

2007年12月05日

寒 灯

「 猫と二人で 」

寒灯の 温かき家 見えて来る

炉話しに 火の粉弾ける 日のありき

湯ざめして 慌てて酒の 支度かな

耳掃除 猫と二人の 日向ぼこ

母有れば 生姜湯ねだる 夕べとて

寒海苔の ぱりぱりとして 決意せる

年の宿 まだ決めかねて 米を磨ぐ

見慣れなき 若き杜氏よ 寒造り                         
                                      
                                      
                              

2007年12月04日

神武岩

「 ガルフ・ストリーム 」

東征の 神武の岩に 冬の波

海鳥は 氷雨叩いて 帰り行く

独り旅 湾岸風も 凍てにけり

泣き言は 木枯らしの夜こそ  禁句なり

売れ残る 大根かたす 露店かな

野良猫の 寒夜に鳴けば 我も吠え

白菜を 使い残して 口惜しや

焼き芋の 売り歩く声 甘からず                        
                                        
                                    
                             
                                 

2007年12月03日

日記買う

「 冬凪ぎ 」

子の呉れし 目は粗けれど マフラ巻く

山賊の ぬっと出るかや 冬山路

水仕事 終えて俄かに かじかみぬ

鯛焼きは 互い違いに 納まりて

まだ腹は 鳴かぬと云うに 夜鳴き蕎麦

続かぬと 知ってはいしに 日記買ひ

寒釣の 塑像に紛う 静けさよ

舟人の 影を見ている 冬の凪                         
                                    
                             
                                      

2007年12月02日

里 心

「 あまたの祈り 」

勾配の 土踏みしめて 梅探る

冬砂利の 一足ごとに 魂は澄み

昼の月 突き抜けしごと 冬来る

胸中に 焦りは積もる 日はつまる

寒暁や 数多の祈り 届きしか

酒切れて 溜息一つ 夜半の冬

冬天に 青重なりて 他を寄せず

凍雲の 極まる高み 里心

2007年12月01日

その先の

「 夜 話 」

仕方無し また来る明日の 冬茜

北風に 抗う鳥を 見送りぬ

風花舞う フェリーの銅鑼の 吾を急かす

狐火と 見まごうばかり 里の家

セーターの ほつれし糸の 愛しさよ

脇差しの 擦れし跡か 大襖

手あぶりの 火を埋めいる 母ありき

夜話しに 子はしっかりと 足絡め

人が世は カーブして行く 鉄路かな