2008年02月29日

はだれ雪

「 土の春 」

目を拭けば やがて僅かに 春動く

我が身にも 氷解く日の 時やある

やれ嬉し 遠き山野に はだれ雪

想い出は チャンバラごっこ 末黒野

重なりし 手前より今 山覚める

雨来れば 俄かに匂う 土の春

文庫本 尻のポッケに 杜氏帰る

東側 猫の隙間や 垣手入れ    
                    
                         
                      

2008年02月28日

春の子

「 卒 業 」

祝い膳 親しく燈る 春の燭

初磯や 煮魚ありし 祖母の家

子を連れて 若き農婦の 桑を解く

苗箱に 背くらべせる 春の子等

いさかいし 友もありけり 卒業す

険峻の 峠を目指し 青き踏む

遠足の リュック眩しき 子等の列

やはらかに 近づいて来る 春雨傘

                        
                                 
                                   

2008年02月27日

今年の春陽

「 今日を信じる 」

つばくろの 声ぞ嬉しき 荷を畳む

嬉しくも なけれど懐かし 春の塵

この朝は 色変えてみる 春帽子

遍路宿 窓に結びし 笠の紐

陽の方へ やや傾ける 鉢の梅

山路には 今日を信じる 木付子かな

芽山椒 香り逃げるぞ 早よ 包め

薔薇の芽の 紅の手で 我を指す

田の畦に 芹を摘みいて 暮れなずむ

                          
                         
                               

2008年02月26日

卑怯な私

「 指きり 」

菜の花に 果たせぬ指と 赤き月

帰らねど 恋を思へり 楓咲く

馬刀貝の 僅かに覗く 磯かほる

春社には 憂いも悔いも 無き如し

ひと畝に 焦り心で 芋植ゆる

帰るべき 郷遠けれど 雁の風呂

釣釜の 揺れて畳に 陽は淡し

重き腰 上げよと急かす 春嵐

人情も 獣に劣る 獺祭        

                     
                       
                         

2008年02月25日

路地に迷う

「 村外れ 」

皆帰り ぶらんこの影 後を追う

村外れ 斜め畑に 麦青む

旅愁あり 独り北指す 竹の秋

草餅や 亡きひとの分 買い足せる

深山独活 酒宴の前に つまみ食い

残照に 色失せたりし 夕椿

迷い路地 まだ道は無き 西行忌

蕗の薹 目星のあれば 油買う

                             
                                  

2008年02月24日

春祭り

「 耕 人 」

酒支度 ほうれん草は 手でちぎり

とほくより 馬の鈴来る 春祭り

雲行きて 曲がりの土手に 草青む

幼な木に 根巻き優しや 苗木市

耕人の 肩に担いだ 鍬軽し

剪定を 終えて昼餉の 握り飯

野仏に 微笑みている 菫かな

風絶えて 山に休みぬ 春の星

                           

2008年02月23日

二月尽

「 苗 札 」

亡き人の 指を繰りたる 二月尽

海胆提げし 故郷の道の 直ぐきこと

満月や  帰る家無し雉 ほろほろと

薇の 白き産毛も 恋の頃

野火ありき まだ青き日の 傷のごと

桑を解く 色黒き人 里の昼

ほろ酔いの 道連れ親し 月朧

苗札の 拙き文字を 許したり  

                              
                              

2008年02月22日

通い猫

「 雀隠れ 」

桜草 君に弱音を 云うて暮る

牛蛙 昔日を鳴く 燈が灯り

夜勤明け 朝もいそいそ 通う猫

頬白の 語り尽くせば 闇を見き

野を歩く 雀隠れの 道祖神

翁草 少年の靴 下駄の音

もどかしき なかなか来ない 春霰

顔上げよ いざ立ちて見む 北開く

峰低し 鷹鳩となれ 獅子猫に

おんおんと 泣くな泣くほど 遠き郷

                            
                        
                                

               
                       
                             

2008年02月21日

主無き梅

「 青磁と桜鯛 」

子雀の 固まり歩く 目の柔わき

身も軽く 整え終えし 落し角

朝は二個 優しく割れよ 春玉子

薄氷(うすらい)を 踏めば新たな 明日の音

老夫婦 語らず野辺に 蓬摘む

牛去りて スイートピーの 揺れてをり

誘い合い 堀に枝指す 柳の芽

桜鯛 抱きて青磁は 黙したる

人無くも 忘れかねてか 梅の花

                            

                        

2008年02月20日

牧開く

「 春 袷 」

夜の闇に 猫の夫かな 狂い鳴く

田楽の 串で字を書く 独り酒

思い出の 峠越えれば 牧開き

恥ずかしき 顔も隠さで 獺祭

主無き 庭に哀しき 桃の花

昔日の 何に手を振る しほまねき

在りし日の 母に幸あれ 春袷

色褪せし 勿忘草や 恋日記
                                  
さぐり探るまたひとつ消すような恩を踏む                             
                        
                              

2008年02月19日

地獄の釜の蓋

「 花御堂 」

彼の旅の 忘れがたきよ 焼き栄螺

君が口 今も恋しき 仏の座

さすらいて 見れば地獄の 釜の蓋

恋もあり 老いに眩しき 雛あられ

置き去りの 紅の貝 闇に閉ず

温もりを 忘れかねたる 花御堂

白梅が 滲みてもありし 逢瀬かな

子雀も 親に別れる 朝の雨           
                  
                     
                   

2008年02月18日

佐保姫

「 大根の花 」

池巡る 水辺に太き 烏貝

人絶えて 夜半の綿雪 ゆらと落つ

写真には 早春の川 笑ふ君

佐保姫の 簪となる 枝を見き

はやばやと 多羅の木の場所 確かむる

山畑に 大根の花 蝶のごと

覚悟して 今宵この日の 韮を切る

酢を効かせ 海雲(もずく)に生姜 伊万里鉢

子の蟹は 行きつ戻りつ 磯開く          
                     
                            
                              

2008年02月17日

生き尽くす

「 鶯日和 」

波寄せる 掌の砂洗ふ 貝拾い

晩酌へ 浮かれ心や 磯菜摘み

目刺喰ふ 男は何が 不足なる

巡る日を また噛みている 嫁菜飯

茶をいれて 鴬餅の 日和かな

道端に 繁縷は足を 避けて居り

早蕨の 林は切られ 胸に住む

春蘭の 鉢並びたる 馬屋前

老いの身や 優しくあるは 春日のみ            
                     
                     
                       

2008年02月16日

この風は

「 寂しゅう無い 」

小川には 子の二人有る 雨水かな

縁側に 寝て見る空や 春兆す

磯蟹の 穴に急ぎし 潮干寒

大淵は 色失なへる 龍天に

この風は 苗代時の 恋の風

春霜の 一夜の労苦 潰えけり

鳥曇り また逢うことを 願ひたる

寂しゅ無い 木々を飾りて 春銀河             
                         
                           
                        

2008年02月15日

実らないもの

「 野焼きの頃 」

祝い酒 小腹に嬉し 菜飯かな

誰や知る 実ならぬ木の 芽吹く宵

隠れ宿 塗り膳古き 大椿

仲良しの 家族の頃よ 潮干潟

野火消えて 川緩やかに また動く

幼くて 春告鳥はまだ 鳴けず

父の忌や ほうれん草に 霜薄し

淡雪の 如くに色を 削ぎて詠む              
                         
                              
                                

2008年02月14日

ヒマラヤ杉

「 葦の角 」

少女等は 髪に等しく 花かざし

畑打ちの 今日は二人に 増えにけり

街過ぎて 菖蒲根分の 庭師かな

試験終え 顔様々に 昼電車

残雪の 峰を見上げる 農夫かな

葦の角 新たなる日々 始めたり

子の靴に 誇らしげなる 春の泥

立ち雛の 柔らかに笑む 奥座敷               
                           
郷恋うて ヒマラヤ杉の 山を見き                                         
                              
                         
                             
      

2008年02月13日

数珠子の目玉

「 宝石箱の桜貝 」

嘆くまい 四つ葉に子等の 目は光る

飛び石に 重なり合いて 亀の鳴く

水溜まり 数珠子の目玉 数え上げ

雛売りの 老舗の旦那 鼻毛抜き

草焼きや 爪の中まで 焦げ臭し

主張せぬ 渋き和装の 沈丁花

風撫でて にゃあとばかりに 猫柳

桜貝 三つ潜めし オルゴール  

焼野より 山越しの風 きぎす鳴き
                            
                           
                               
             
                            
                                 
  

2008年02月12日

いじめ ?

「 春大根 」

憂鬱を 断ち切る如き 雲雀笛

惜しむべき 日々はあれども 鳥雲に

ささやかな 祈りを運べ しゃぼんだま

それぞれの 愁いを開く 山椿

予定変え 葉のまま買いし 春大根(はるだいこ)

目を閉じて 想うて居るは 田螺道

風船に 胸の幼子 目覚めたり

日記には 旅へ とだけの 春の航

懐かしき 郷の訛りの 蓬餅              
                  
寒戻り 試練と見るか いじめかや
                          
                          
                               

                           
                                 
                                   

  
                  
                       

2008年02月11日

恵方巻き

「 浜防風 」

忍び掌を 二つ叩けば 梅香る

酒焼けの 男がはしゃぐ 農具市

笹起きて 浜に遊べる 鳥を見き

杣道に 雪溶け残る 春浅し

ぎしぎしの 芽を摘む森は 音も無し

刺身買ひ 浜防風の 欲しくなる

野良猫は 春のカラスを 見詰めたる

夜も更けて 近所迷惑 浮かれ猫

桑の芽に 甦る日の 多くして

馴染み無きに 更に誘ふや 恵方巻            
                             
                          
                               

                
                               
                         
                                   

2008年02月10日

春の灯

「 月と歩く 」

餅も無く 祖母も居らむに 蓬摘む

美濃皿に 尾頭付きの 桜鯛

峠越え 春の灯りの 遠きこと  

怠け居て 魚氷に上る 頃となり

ほろほろと 酔いて見上ぐる 春北斗

田楽の 串まで舐めて 酒の宿

月と歩く 涅槃会の夜の 家路かな

心より 誇れる国か 紀元節            
                          
ちさき鉢に ヒマラヤ杉は 強く生き                           
                  

                              
                               

 

2008年02月09日

雲間の凧

「 ねんねこの赤ちやん 」

山裾の 日を背に負うて 野蒜引く

明日には 窓辺を飾れ フリージア

豆の花 天を目指して 竹を超せ

白魚が 波止場を占めて 風白し

献餞の 一夜官女に 百大蛇

ぶらんこの 雪乗せ揺れる 昼下がり

ねんねこや 子は握りしむ 風車

雲間あり 凧遠く見ゆ 川緩む                   

           

2008年02月08日

枝確かめる

「 雪解光 」

行く手には 何があるやら 遠霞

淡雪の 短き一夜 終えにけり

まだ咲かぬ 枝確かむる 匂鳥

陽炎が 逸る気持ちと 呼びあいて

初午や 狐の眠り 覚ましたる

働かす 事無き者にも 針供養

階段に 躍り舞いたる 雪解光

下萌に 励まされての 旅の朝

                 
                          

2008年02月07日

雪 雀

「 磯 竃 」

川眺め 墨を擦りたき 土筆かな

堤防に 四つ葉探す子 柔らかき

仮眠して 肩寒きかな 春霙

ひと刷毛の 匠の技か 春夕焼

想い出は 墨絵と褪せし 花菜雨

磯竃 海女の持ちたる 薪太き

浅葱を くわえて可笑し 浅蜊汁

吉原の 柳哀しき 踏絵かな

この朝も 喰わねばならぬ 雪雀                 
                            
                         
                  
                             

2008年02月06日

良寛忌

「 菜の花 」

菜の花の 色に染まりし 里の風

節分や 老いたる鬼は 門煙草

鮮やかに 水玉纏う レタス買ふ

雲速し 水車見下ろす 山葵沢

祭笛 身の置き所無し 座禅草

げんげ田に 迷い込みたる ゴムの鞠

青春の 影匂ふごと 花菜かな

幼子の 手形に破る 春障子

帰る子の げんまん聞こゆ 良寛忌

                                 
                                
                            
                             
                                

2008年02月05日

長き警笛

「 梅祭り 」

あの年は 兄と騒ぎし 梅祭り

弔いの 長き警笛 梅二輪

山辺なる 一人静の 白き影

若布刈る 笑うも高き 海女の声

春菊の 取り残しある 花の黄や

陶皿の アスパラガスは 辛子マヨ

山風に 背を低くする 葱坊主

村外れ 山羊の頭上の 花馬酔木                 
                                   
痩せ犬に 日曜の雪は  しきりなる         
                                 
         

                              

2008年02月04日

雛の夢

「 ひよこ 」

祖母無くに 光りは優し 郷の波

助手席に 座る帽子や 上り簗

胃疲れを 仕事のせいに 二日灸

出店には 親を見知らぬ ひよこかな

陽は高く 蕾も嬉し 鉢の梅

ひと椀に さてこの年の 五加木飯(うこぎめし)

青春の 影匂ふごと 花菜かな

川風や 下に靡ける 雪柳

吾子買いて 窓辺に座る 風信子

良き日かな 雛が夢連れ 鄙の嫁                  
                        
                    
                            
                           

2008年02月03日

東 風

「 旅の重さ 」

風あれば 首を竦める 牡丹の芽

待ち望む 蕾が為に 東風よ吹け

旅人の 明日の重さよ 山笑え

本を置き 明日の分の 目刺焼く

街暮らし 指繰りて見る 夕椿

山独活を 皿に併せて 切り揃え

夕飯を 期待し畔に 田芹摘む

迷うてや また良き山路 黄水仙

己が為 更に矢を研げ 西行忌

               

                           

                        
                             
                              

                   
                                   

2008年02月02日

朝の陽

「 春よ来い 」

凍蜂は 陽射しへ少し あと二間

寒明けと 云えども寝床を 出たく無し

岸に寄り しばし廻りて 浮氷

窓越しの 陽に騙されて 冴え返る

朝の陽の 笊に並べる 蜆貝

深き猪口 胡麻で仕上げる 木の芽和え

稜線に 躊躇うている 春の星

一輌が 鉄橋を渡る 風光る                 
                             
                                  
                                  

2008年02月01日

我も衆生なり

「 迷い雪 」

救急車 寒夜の犬は 併せ吠ゆ

舌を射す 冬のビールも また旨し

焼肉を 食べ過ぎたれば 葱ばかり

ひとひらの 迷い雪あり 闇深し

火の番に  警笛をもて 励ませる

裸木の 欅通りに 斜めの陽

冬空に 飛行機雲は 緩みたり

働けど 貧しきままで 老いの冬

冬路地に 我も衆生ぞ 石地蔵