2009年07月14日
杏の実
去にし子の影追う哀れ落ち杏
・ 1
とおりをまがるとみなれた門があった。小さいころ住んでいたその家は、赤い屋根も昔のままに雨の中で静かにねむっているようだった。
ひさしぶりにおじいちゃんちへきたのはわけがあった。 今日おばあちゃんをコンサートに連れて行くことになったおじいちゃんが、ひとりぼっちになってしまう89歳のひいばあちゃんのために、孫のミチルを呼んだのだった。
チャイムをならすと玄関のドアがあいて、よそ行きの支度をしたおばあちゃんとおじいちゃんが出てきた。 「ああ、ミッチ、よくきたわね、ありがとうね。」
「ミっちゃんいらっしゃい、ごくろうさん。ママが帰りに寄るっていってたよ。」
ミチルはすぐひいばあちゃんの部屋へ案内された。
「ひいばあちゃん、こんにちは、ミチルです。」
「ああ、こんにちは。ええと、どなたでしたっけ?」
「あら、おばあちゃん、花が丘のミチルをお忘れですか?ほら、太郎の娘のミッチ、小さい時よく抱いてあげてたじゃないの。」
「ああ、ミッチかね。大きくなったねえ。」
ひいばあちゃんはベッドから起き上がって、ミッチをじっとみつめた。 去年の春亡くなったひいじいちゃんのお葬式いらいだった。あれから、ひいばあちゃんはほとんど外出もせず、すっかりひきこもるようになったという。
「ねえひいばあちゃん、どこか具合が悪いの?」
「いいえ、ただつかれただけです。どなたさまかぞんじませんが、どうもごくろうさまです・」
「わたしは・・・」 ミチルはなんといっていいのかわからず、口をつぐんだ。 (こういうことだったのね。ひいばあちゃんは、体はどこも悪くはないが、どうも頭が悪くなってきて困ったものだわと、前におばあちゃんがママに話していたのは、)
・ 2
おばあちゃんはいろいろ説明しながらミッチをダイニングに案内していった。
「おなべにけんちん汁ができてるから、あたためて一緒に食べてね。冷蔵庫にサラダとフルーツがはいっているし、・・・これはひいばあの好きな煮豆よ」 「お風呂はさっきすんだし、トイレは自分でいけるからベッドから降りるときだけ気をつけてあげてね。」と、いろいろ教えておいて、 「ま、とりあえずは、何もしなくていいのよ。ひいばあがさびしくないようにミッチに来てもらったんだから・・・」 といった。
「ひいばあちゃん、ひいばあちゃん!私たちはこれから長野へ行ってきますからね。6時を過ぎたらみっちゃんといっしょにゆうはんを食べてね。」
「じゃあ、みっちゃん、玄関は鍵をかけておいてね。」 そういいながら、おじいちゃんとおばあちゃんはミチルに見送られて楽しそうに行ってしまった。
おじいちゃんちには古いアンズの木があった。ちょうど雨が止んだ直後で、熟したアンズの実が雨露とともに落ちてきた。太い根元のあたりにはそうやって今落ちたばかりのきれいな実が5,6個ころがっていた。ミチルはそれをひろって、食後のデザートにしようときれいに洗って皿に盛りダイニングのテーブルの上にのせておいた。
・ 3
しばらくしてひいばあちゃんのところへいくと、ひいばあちゃんはベッドで寝ていた。しかたなく食堂へ戻ろうと思って部屋をでると、ひいばあちゃんの声がした。
「おかあさんかえ?」
「ううん、おばあちゃんはおじいちゃんといっしょにコンサートに行ったのよ。ねえ、ひいばあちゃん、まだ夕飯前なんだから、起きていたほうがいいんじゃない?テレビつける?」
「ええと、あなたはどなたでしたっけ?」
「花が丘のミッチ、ひまごのミチルよ。」
「花が丘ねえ、花が丘というと、まごの太郎が家を建てたところだったかね。」
「ええ、そうよ。私が5歳のとき、この家からひっこしたのよ。」
「そうだったねえ、太郎の子が、ミチルとケイで・・・」
しゃべりながらテレビをつけたひいばあちゃんは、そのリモコンをじっとみつめた。するとテレビの画面が真っ黒に変わってしまった。
「ちょっと、このテレビなおしてくれない? NHKニュースみたいんだけど、チャンネルがおかしいわねえ。」
「どーれ、ちょっと貸してみて」 リモコンの点滅しているボタンをおすとテレビの画面が戻ってきた。
「あ、ありがとう、ありがとう。・・・・ところで、あなた様は、どちらさまでしたっけ?」
ひいばあちゃんはほんとにどこも悪くないんだけど、記憶力がもうれつ悪くなって困っているそうだと、ママから聞いてはいたけれど、何度も何度も名前をきかれるので、ミチルの方もこまってしまった。
「花が丘のミチル。ひいばあのむすこが純一でしょ、純一のむすこが花が丘の太郎、太郎のむすめが・・・」
「ああ、ミッチだったね、こんにちは。今日はおみまいにきてくれてありがとうね。」
「ひいばあ、やっと思い出してくれたのね!あら、あそこに七五三のときの写真がかざってある。あの中にいるのが私とケイよ。」
「ちょっと、おかあさんはどこにいるの?おかあさんや! おかあさんや!ミッチがきたんだよ!」
「ひいばあちゃん、おばあちゃんは今いないってば!おじいちゃんとコンサートに行ってるのよ!・・・そうだ、ひいばあちゃん、そろそろ夕ご飯にしましょうか。ちょっとテレビ見ててね。」
ミチルが二人分の汁を温めたりごはんをよそったりして食卓を整え、ひいばあちゃんを呼びにいくと、ひいばあちゃんはベッドからおりていすに座ってテレビをみていた。
「ひいばあちゃん、ごはんの用意ができました」
「はい、ありがとう。」
ミチルと食堂まで歩いていったひいばあちゃんは、ミチルが用意した食卓について、向かい合うとまた首をかしげていうのだった。
「ええと・・・。あなたはどなたでしたっけ?」 ミチルはとっさにうそをついてみた。
「ひまごのケイ、花が丘のケイです。」
「何言ってるの?、花が丘の家からきたひまごはミッチじゃないの」
「あっあたり! もう・・、ひいばあは、ちゃんと覚えているじゃない!」
「ホホホ、そりゃ、かわいいまごのことですもの・・・」
・ 4
ミチルはひいばあちゃんとご飯をたべながら思った。 (ひいばあは、ほんとは何でも知っているのに、とぼけてみせてるんだ!)
「あのね、魔法瓶にお豆をいれて、そこへ熱湯を入れてひとばんおくと自然にやわらかな煮豆ができるのよ」
「ふうん、・・あっ、しまった! 煮豆出すの忘れてた。 はいっ、ひいばあちゃんの好きな煮豆」 (もう・・・どっちが忘れん坊なんだか・・・・)
「・・・・・・」
ひいばあちゃんが、とつぜんなにかいって、はしをおいた。
ふるえる手でいっしょうけんめいテーブルの上の1枚の皿をのけようとしていた。
「えっ、なあに?」
「このアンズ、どうしたの?まさかひろってきたんじゃないわね?」
「庭に落ちていたアンズよ。きれいでおいしそうだったからミッチがひろったのよ。」
「だめだめミツコ! ひろったアンズはバイキンだらけなのよ! ミツコはオチアンズを食べて死にたいのか?」
「いやだ、ひいばあちゃんたら、わたしはミチルよ!ひろったからと言ったって、きれいに洗ってあるのに、食べたら死ぬなんてありえない!」
「はい?・・・ええと・・・・あなたはどなたさんでしたっけ?」
ミチルはため息をついてはしをおいた。
「わたしはひまごのミチル、おじいちゃんとおばあちゃんは今おるすなの。ねえ、ひいばあちゃん、ひいばあちゃんこそ、いったいだれ? どうなっちゃったの?」
ミチルは、目の前で静かにはしをはこんでいる上品なひいばあちゃんをじっとみつめた。真っ白な髪の毛、おどろくほど小さな口、そしてかぼそくよわよわしい指。 この人はほんとに私のひいばあちゃんなのかしら?
ひいばあちゃんはだまって食事をおえると、 「はい、ごちそう様でした」 といって静かに立ち上がった。 「それではわたしはこれで失礼いたします。」
あっけにとられているミチルを残して、ひいばあちゃんはしずしずと自分の部屋へ引き返していった。
・ 5
しばらくして様子を見にいくと、ひいばあちゃんはベッドですやすやねむっていた。
ミチルが食堂へもどり、お皿を片つけたりしていると玄関のチャイムがなった。
ドアを開けるとおつとめがえりのママが立っていた。
ミチルの話をきいて、ママはいった。
「ひいばあの一番最初の子が女の子でね、たしかミツコっていった。おじいちゃんには2つちがいの妹がいたんだけど、小学校へ入る前の年に落ちたアンズを食べたために「エキリ」という病気になって死んでしまったという話をきいたことがあるわ。昔はそうやって死んでしまう子が多かったんだけれどね・・・。
もう60年もたつのに、ひいばあにはけっして忘れられない事なのね。」
2008年09月19日
子育て地蔵さま
昔むかしのお話です。この辺りの街道を旅する馬方と馬がありました。
この村のある場所を通りかかったところ、急に馬がヒヒーンとないて倒れてしまいました。
馬方が困っておりますと、村の人たちも心配して集まってきました。
誰かが思いついていうことには、「この馬、何か痛い物でも踏んだんじゃねえか」。
そこでみんなはその辺りを探しましたが、それらしい物はみつかりませんでした。
「もしかしたら、土の中に何か隠れているかも知れねえな」と、誰かがいうと、
さっそく若者たちがクワを持ってきて掘り始めました。
けれども一時(いっとき)近く掘ってもなんにも出てこないんで
「やっぱり、何にも無かったか」と思ったとき、カチーンという音がしたのだそうです。
「おおっ」と、手応えを感じた村人たちが、もっともっと掘っていくと、えらいことに大きな石のお地蔵様のようなものが出てきたのだそうです。
「こりゃ、立派なお地蔵様だ」
「馬がひっくりかえったのは、お地蔵様の居場所を知らせるためだったんだな」
ということで、村人はこの地蔵様のためにお堂をたててお祭りしたということです。

今は公民館に安置されているお地蔵様
村人達は困ったことや願い事があるといつもこの地蔵様にお願いしていたそうです。
するとお地蔵様はお父の病気で困っている家の田植えをしてくれたり、赤ん坊にやる乳の出をよくしてくれたり、子供の病気を治してくれたりしたそうです。
また日照り続きで困ると、このお地蔵様を担ぎ出して雨乞いのため川に投げ込んだりもしました。
このようなことから、「身替わり地蔵様」とか「子育て地蔵様」とか呼ばれるようになっていったということです。
2008年06月03日
ナナの池

朝です。夕べから降っていた雨がやみました。だんだん明るくなってきた空の下を黒い雲が生き物のように形を変えながら走りすぎていきました。
ぴかーっと朝日がさすと、ナナはおきあがりました。きょうはナナがジイジの家でごはんを食べる日です。「おはよー!」といってママのキッチンにとびこむと、ジイジのバスケットをもらって庭へとびだしました。
ジイジは庭を通り抜けたところに一人で住んでいました。ナナが急いで通っていくと、庭の奥で何かがきらりとひかりました。
「なんだろう?」
ナナが見たそれは、大きな池でした。
「うわーっ、大きい池!」
ナナはジイジのバスケットをもったまま池のそばまでいってみました。かなり深そうな水の底に水草がゆれているように見えます。

「ナナーッ、なにしてるの?」ママの声がとんできました。ナナは急いでジイジの家へ歩いていくと、ジイジにいいました。
「ジイジ、あっちのほうにね、大きい池があったよ」
「いけ?池ねえ、どうしたことだろう・・・」
いいながらジイジはバスケットから丸い焼きたてパンをとりだして、テーブルにならべました。ジイジが今摘んでいた野苺も出しました。
「このあたりに池があったらいいと思っていたがねえ、さ、いただこうかな」
ナナはジイジとおいしい丸パンをたべながら、(あそこに魚はいるのかな)と考えていました。
お昼過ぎ、ジイジとお散歩に行ったとき、ナナはジイジを庭にみつけた池の所へつれていっていいました。

「ほらね、こんなに大きい池があるの、ジイジ、知らなかったあ?。」
「ほほうー、これがねえ。」
ジイジは感心したようにいいました。
「この池はナナが見つけたから、ナナのいーけ!」
ナナはそういって池の周りをぐるっとまわりました。水に映った空もぐるっとまわりました。
「この池はゆうべの雨がたまっできたのだよ。きれいな水だねえ」
ジイジもしばらくそこにしゃがんで池をみていました。
夕日が雲を赤く染め、赤く染まった雲がナナの池も赤く染めました。ナナは
「ばいばーい、ナナの池、また明日ね!」
といって元気にジイジとかえっていきました。
次の日、ナナはママとお友達の所へ行きました。お昼過ぎ、家に帰ると、出かける時にちらっとみたナナの池が、なんだか元気がなかったようなのを思いだしました。ママといっしょにお庭の奥へいってみました。ナナの池は少し小さくなったようですが、元気にに明るく光っていました。ナナは、お水が流れ出ないように池の縁に小石をならべてあげました。そして安心していいました。
「ばいばーい、ナナの池、また明日ね!」
三日目、ナナはまたジイジのところへ行きました。ジイジといっしょにご飯を食べ、午後またナナの池を見にいきました。池はさらに小さくなっていました。
ナナの並べた小石がまるでなにかにはじかれたように水から離れていました。ナナはジイジのお家までいって小さなバケツに水をくみました。そして、ナナの池の所までヨイショ、ヨイショと運んできました。
ナナがザアーッとバケツの水をいれると、きれいだった池の水がすっかりにごってしまいました。
「ナナの池、おこってる・・・」
ナナはジイジの背中に顔をつけたまま、おんぶしてお散歩から帰りました。
その次の日は朝からよい天気でした。
けれどもナナはジイジの所へ行っても元気がありませんでした。
ジイジがお散歩にいこうと誘っても首を振るだけで、床の上に腹ばってお絵かきしているのでした。
午後いつもより早くおつとめから帰ってきたママがナナを迎えにきました。
一緒に庭をあるいて帰りながらママがいいました。
「ナナの池、今日はどうだったの?」
「しらない・・・」
「ちょっと、見てこうか?」
二人でいくと、池はどこにもありませんでした。ただナナの並べた小石がそのまま残っていました。
「・・・・・・・・」
じっとみていると、小石が並んでいる辺りにぴかっと光るものがありました。最後の一滴の水が夕日に反射して光っているのでした。
「あれ・・・・」
「・・・あれが、ナナの池よ」
「・・・大きな池だったのに、どうしてあんなに小さくなっちゃったの?」
「あの池の水はね、もともとお空からおちてきた雨でしょ。だからまたお空に帰ったのね・・・」
「ふうん・・・なかまの水をみんなお空に返してやったから、だからあんなにぴかぴか光っているんだね。おーい、ぼくも行くからねって。」
「そしてナナの池は水が無くなってもやっぱりここにあるのよ。ナナが覚えているうちはずうっとここがナナの池。ほーら、ナナが並べてあげた石もここにあるし」
「うん、ぼくあの池のことぜったい忘れないよ。大きくて、立派な池だった。空が全部映っていたほどだもの。」
ママはナナをだきあげ、ほおずりをしていいました。
「ナナちゃん、ママやパパのことも、ずっと忘れないでねえ。」
それから、明るい声でいいました。
「さ、お家へかえろ。パパもそろそろ帰ってくるわ。」
2008年04月05日
野良遊びママに花束あげるのと

ナズナ、ハコベ、オオイヌノフグリ、ヒメオドリコソウ、ホトケノザ、タンポポ・・・ひとつひとつ見ていたら手が進まない。これからの草取り、たいへんです。毎日競争で花を咲かせる雑草たちとの追いかけっこですから。
いっしょに野良に出た孫が、ママにプレゼントする!といって花摘みをしていました。
2008年03月09日
春風と一緒に走る夢見てる

はるかぜといっしょにはしるゆめみてる
やえもんうとうと風の中。
雪が何度も降っては解けて、
何度もやえもんの顔をぬらした。
最後に会ったのはいつだったか、
忘れた、だけど待っている。
やえもんっていって今日あたり、
手をふりながら、かけて来る。
2008年01月14日
雪の子

雪が降り始めると、山も木も家も、みるみるうちに色を失っていきます。
落ちる雪を下から見上げていると、逆に深い水底から水がわき上がってくるようです。
雪は、くるくると舞い上がったり、窓ガラスにピッタリとはりついたり、
まるで子供たちが自由に戯れているような楽しいにぎやかさです。
そのころ私は双子の出産のため入院していました。
3階の病室で、窓にうつる雪の乱舞をながめながら、大きたおなかにそっと手を当てていいました。
「ねえふたごちゃん、どんな顔をしてるの?どんな声かなあ?・・・ほんとに、ほんとに長く待っていたのよ、あなたたち・・・」
それから、書いていたはがきに宛名を書いて切手をはり、ころばないように気をつけながら病室を出ました。そして病院通用口のすぐ脇にあるポストのところまで、ゆっくりと歩いていきました。
外はもう青い夕闇、そのうえ何もかも雪につつまれたためか知らない世界にきたような気がします。
そのとき、チリンという鈴の音が聞こえました。どこかでこどもの泣き声もします。
「いやだよう、・・・・こわいよう、・・・うぇーん・・・・」
よく見ると、雪で高くなった道の、青と黒のくっきりとした影のなかに、白いペンギンのような姿が二つ並んでいるではありませんか。雪の子です。私はおなかの大きいのを忘れてその小さな人影に近づいていきました。泣いていたのはその片方らしく、もう片方の子が、「ね、ね、みんな待っているんだから」といって、なぐさめていました。
「こんばんは、」と、わたしは声をかけました。「ぼうやたち、こんなところで何してるの?」
じっと下をむいていたふたりの子が同時に顔をあげました。見たことのある顔、・・・・夫にそっくりなそのまなざし・・・私は二人の前にひざをついてしまいました。
「まあ!私のふたごちゃんじゃない!やっと、来てくれたのね!」
私は二人を両腕のなかに抱き寄せました。
すると今まで泣いていなかった子の方が泣き出しました。
「ぼく、ほんとにこまっちゃったよ。ちいちゃんなんて、もう3年も前からいわれてるのに、いつまでも遊んでいるから神様に怒られちゃってさ。それでぼくもいっしょに行きなさいっていわれたの。やっとここまで連れてきたのにまだ泣いているんだから」
「そうだったの、ちいちゃんといっしょで大変だったのね。でももう大丈夫よ、さあ、いっしょに病院へいきましょう・・・」
3人で歩いていくうちにだんだん身体が軽くなって、いつの間にか私たちは空を飛んでいました。
「じゃあ、ぼくたち行くけど、ママもがんばってね」
「ええ、ママもがんばるから、ふたりともなかよく元気に生まれてきてね」
雪の子たちは暗くなった玄関ホールのあたりでふっと消えて、私はそのまま深い眠りに落ちました。
ホールの床に倒れている私を看護婦さんがみつけてくれ、無事に双子の男の子が生まれたのはその夜おそくでした。病室にもどされた私のベッドの横には、二つの小さなベビーベッドがあって、それぞれ白い産着にくるまれた赤ちゃんがねむっていました。けれども目をあげると、仰向いて横たわっている私のま上の空間で、白いマントの雪の子がいつまでも楽しそうに遊んでいるのでした。




